2017年4月29日土曜日

人混みでは米国のばく露限界をオーバーするイソシアネート

 一般の人にはあまりなじみが無い化学物質の規制ですが、有毒な化学物質を扱う職場では作業環境で有毒物質の濃度をこれ以下に抑えなさいという規制値が有ります。

 ほとんどの労働者が1日8時間、1週40時間職場でばく露されても著しい健康障害を引き起こさないと考えられる「ばくろ限界」という値が各化学物質ごとに決められています。

 但し、有害物質への感受性は人により異なるので、この値以下であっても健康異常を引き起こす人も居るし、逆に越えても平気な人も居るとされています。

詳細は以下のページが分かり易いので、参照して下さい(愛媛産業保健総合支援センター)
http://www.ehimes.johas.go.jp/wp/topics/830/

 昨年2月に米国産業衛生学会が、トルエン-2,4または2,6-ジイソシアネートまたは混合物(TDI)のための新しい時間加重平均(TWA)を採用し、8時間TWAを5ppbから1ppbに厳しくしました。この変更は、厚生労働省主催の有毒物質を扱う職場の作業環境を管理するための検知管セミナー資料で知ったのですが、どんな不都合で厳しくされたのかは調べていますが私にはまだ分かりません。

 このイソシアネートはポリウレタンの材料等になり色々な物に使われています。中でも問題なのは、洗剤や柔軟剤の香り付けの合成香料を長持ちさせる為のマイクロカプセルの殻の部分に一般的に使用されている事です。

 この事は我々一般人は知らない事ですが、洗剤や香料メーカーの特許に記載が有り、以下は国際特許に記述されている例の一部です。
「ポリイソシアネートとポリアミンとの間の重合によって形成されるポリウレアカプセルは、当該技術分野でよく知られている・・・国際WO2009/153695 FIRMENICH SA」

 また、このポリウレタンは崩壊し易く、崩壊によってイソシアネートが発生する事が確かめられて厚生労働科学研究成果データベースで報告されています。→リンク

 この物質の蒸気やエーロゾルは、眼、皮膚、気道を刺激する。蒸気を吸入すると、喘息様反応を引き起こすことがある一旦アレルギー症状を起こすと、ごく微量でも反応する様になり、「この物質により喘息の症状を示した者は、以後この物質に接触しないこと。」と警告されています。
 また、反復または長期の接触により、皮膚感作を引き起こすことがある。反復または長期の吸入により、喘息を引き起こすことがある。人で発がん性を示す可能性がある。 とも記載されています。(国際化学物質安全性カード参照)→リンク

 更に、アルコールが分解されて体の中でアセトアルデヒドになり排出が間に合わないと二日酔いを引き起こす様に、イソシアネートも体の中で分解されてアミンという物質に変わるとされています。また、この代謝(トルエンジアミンの場合)減少の半減期は10~21日とされ、なかなか体から排出されません、CERI 有害性評価書 化学物質評価研究機構資料による)→リンク

 このトルエンジアミンも有毒で吸入ばく露による急性症状として「咳、めまい、頭痛息切れ、錯乱、痙攣、吐き気、意識喪失 1) 」との記載があり、短期ばく露の影響として「気道を刺激する。血液に影響を与え、メトヘモグロビンを生成することがある。」との記載があることから、気道刺激性および麻酔作用があり、また、血液系が標的臓器と考えられた。(職場のあんぜんサイト SDS情報 2,6-トルエンジアミンより)→リンク

前置きが長くなりましたが、このトルエンジイシシアネート等のイソシアネート類をテープ光電光度法で広範に測定できる米国ハネウェル社製の「SPM Flex」という有毒ガス測定器を作動させながら東京のセミナーに出かけたので、その時の状況を知って戴きたいと思います。

 この「SPM Flex」という有毒ガス測定器は、半導体工場等の有毒なガスを扱う所で、ガス漏れが発生した場合に有毒物質の濃度異常を検知して警報を鳴らしたり、装置を止めたり出来るもので、安い車が買える位の値段がします。今回NPOの「化学物質による大気汚染から健康を守る会」よりこの機器を借用出来たので早速自宅から電車に乗って東京まで測定しながら行ってみることにしました。また、同時に簡易TVOC計も持参し、同時に測定してみました。

<測定に使用した計測器>
1.イソシアネート測定用
「SPM Flex」有毒ガス検知器本体
ケミカセット









 測定するガスの種類(グループ)毎にカセットを交換します。今回はイソシアネート用カセットで、0.4ppbからデジタル表示で濃度が読めるものです。



2.TVOC測定用
Atmotube(右)とスマホに表示された測定データ
右の筒状の物がAtmotubeという物で、スマホと連携してTVOC、温度、湿度を計測できます。


















<測定結果のグラフ>全体は小さく見辛いので、部分ごとを後ろに載せます。

 ピークでは1.4ppbのイソシアネートを観測しました。TX→JRの乗り換えで地下のエスカレーターに乗っている時です。換気の良くない人混みです。





















①自宅から駅まで
 自宅では窓を閉めている時はイソシアネートはほとんど検出されませんでしたが、窓を30cm位開いて網戸越しに測定すると0.7ppbになりました。TVOCは窓を開けたことで下がったのですが、暫くして喉が痒くなってきたので、室内でも活性炭のマスクをしました。その時試薬が反応した模様をデジカメで撮影したので添付します。
 →時間の経過(赤丸一つが約15分)
  ←窓締め切り→←窓30cm開→
イソシアネートに反応した部分が赤くなる。通常15分毎にテープが送られる。

窓締め切り→かすかに反応

窓30cm開→0.7ppb




 自宅の玄関を出るとイソシアネートが途端に跳ね上がり、自宅近辺の住宅が建て込んでいる所では1ppb有りましたが、駅近辺の住宅がまばらな所ではゼロになりました。





















②駅から会場まで
 駅のフードコートで早めの昼食にしたのですが、最初の頃は時間も早いので空いていてゼロでしたが、だんだん混んでくると0.6ppbになりました。 

 駅の改札を入ってホームに出るとイソシアンートはゼロになりましたが、電車に乗って混んでくるに従い値が上がり、1.2ppbまで上がりました。

 秋葉原駅に到着して人々が一斉に地上に出るエスカレータに乗って地上のJR改札に向かう時が一番イソシアネートが高く1.4ppbでした。

 また意外に高く感じたのが市ヶ谷の駅で降りて、駅前の交差点や近くの歩道を歩いている時で0.8ppbを記録しています。
















③会場内で
 会場内ではイソシアネートはずっとゼロ(テープは僅かに反応しているがデジタル化の限界0.4ppb以下)で、TVOCは最初人数が少ない時は0.1ppm位でしたが、人が増えると0.8ppmまで上昇しました。

①~③までのテープ反応画像



























④会場から駅まで
 帰りに会場からの歩道やJR車内ではイソシアンートはゼロでしたが、混雑した秋葉原駅近くでは0.7ppbを記録、車中ではピークで1.2ppbを記録しました。ここで奇異に思ったのは、途中駅に着いて混んでいたのが一斉に降りて空いて暫く経ってから大きな値が出る事です。

 終点駅に着いて電車から降りるとイソシアネートはゼロになり、雷雨の様子見待ちで駅構内のベンチで暫く座っていましたが、ここでもゼロでした。















⑤駅から自宅まで
 しかし、次の電車が着いた頃の雑踏状態の駅を出ると0.5~0.6ppbとなり、駅から少し離れた人通りの無い所ではゼロになりました。さらに自宅に近づくと雨で傘を差している状態でも0.6~0.7ppbで、自宅に着いて玄関に入り、計測器をずっと玄関に置いておくと一旦ゼロになったのがまた上昇し、0.8ppbまで上がりました。

















④~⑤テープ画像




<テープ画像の気になる痕跡>
 テープの空気を通し反応した部分を拡大して見ると、黒いもやもやした物が写っています。前回電車の中でテストした時と同じ現象が再現しています。
<行きの電車>
<帰りの電車>






















 この黒い物は空気中に浮遊しているマイクロカプセルかもしれないので、今後できれば捕集して顕微鏡で確かめてみたいと思います。マイクロカプセルだとしたら、その直径の小さい物は我々の肺の中に入り、そこで崩壊してイソシアネートを出している恐ろしい状態が想像されます。

以上

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